
(1)業務委託(契約)とは
「業務委託(契約)」を,受ける側から説明すると,「企業から,個人事業主として,仕事を請け負う」形態の契約です。(ただし「委託」と「請け負い」も性質が違います,後述)
労働者を正規従業員として雇うと
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労働者を雇う企業からすると,労働者を正規従業員として雇うにはコストやリスクが掛かるため,「必要な時にだけ・必要なことを任せられる→業務委託(契約)が(コストやリスクが小さくて)便利」と考えるのですね。
労働者を正規従業員として雇うと,
*深夜時間帯(夜22時から翌朝6時まで)だと割増賃金を支払わなければならない
*正社員の4分の3以上勤務する場合は,社会保険料(健康保険や年金)の半額を会社が負担しなければならない(後述)
*週20時間以上だと雇用保険に加入し掛け金を会社が支払わなければならない
*原則として辞めさせられない
といったことになってしまうからです。
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個人事業主は「フリーランス」と呼ばれカッコイイ・イメージがあったり,自由に自分の個性を活かして活躍できるのですが,「業務委託(契約)」の場合は「いつでも」契約を解除することができます(民法651-1)。
契約/解除の点では,業務委託(契約)は「対等の契約である」といえますが,(発注する側=委任者も,受注する側=受任者も)突然契約を打ち切られるリスクを覚悟しなければなりません。
業務委託契約はいつでも解除できる
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実際の例で見てみると,次の二つが取り上げられます。
[i]急に「止めます」と申し出れば店舗(契約している会社)に迷惑が掛かる(そもそもお客様に失礼ですが)
「いつでも解除できる」と民法には書かれていても,実際には急に申し出ることにより混乱が生じたり,そもそも契約書に「一か月前までに申し出ること」と規定されている場合が多いので注意しなければなりません。
[ii]急に「来月から講座を無くします」と言われる可能性もある
これは立場が逆になりますね。おそらくスタジオのスケジュールは何か月か前から計画されますから,直前に急に講座が消滅することは無いと思いますが,何が起こるかも分かりません。
またそもそも参加者の多いクラスなら存続するに当たり前ですから,参加者が低迷している場合に消滅の危機が来ることは予想できるとも言えます。日頃より店舗の担当社員などと情報交換が必要でしょう。
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「突然契約を打ち切られる/打ち切る」といっても,本当に突然で良い訳ではありません。
民法651条第1項では,「委任は各当事者がいつでもその解除をすることができる。」とし,「委任契約の解除は原則自由である」ことが定められています。しかしながら,民法651条第2項「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任を解除したときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければ」ならないのです。
なお「相手方に不利な時期」とは,委任者が直ちに自ら委任内容を行うことができず,また他の受任者に対して委任内容を委任することができない時期や,受任者が委任内容の処理の準備に着手した時期をいうとされています。
民法第651
委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
註1,最高裁昭和56年判決では,委任者の任意解除権を認め,それによる受任者が受けた不利益は賠償することで両者の利益を図るべきであることが示された。
註2,上記の判例解釈や,現在行われている民法改正論議などの詳細は以下のページにて参照されたい。
(中京大学法科大学院教授)石堂典秀氏の「委任契約における「受任者の利益」概念について」http://www.chukyo-u.ac.jp/educate/law-school/chukyolawyer/data/vol018/02_Ishido.pdf
社員の場合は:手取り20万円なのに会社は30万5000円ほど支払っていることになる
会社が従業員に負担している金額は,手取りからは想像しにくいほど高額だったりします。
所得税・・・月給20万円では4,670円(扶養無し・甲種の所得税額です。詳しくは https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/zeigakuhyo2014/01.htm)
健康保険料(税)・・・3万5000円ほど(健康保険組合によって変わる)が給料から引かれていると給与明細に書かれている場合は,会社はその2倍を払っています(会社と従業員で半額ずつ負担するため)。したがって『7万円』。
年金・・・1万5000円ほどが給料から引かれていると給与明細に書かれている場合は,会社はその2倍を払っています(会社と従業員で半額ずつ負担するため)。したがって『3万円』。
したがって合計して30万5000円となります。手取りが35万円では,50万円ほどを会社が負担していることになるのです。
これ以外にも,賞与(ボーナス)や退職金の積立金(会計上は引当金という。毎月の給与から引かれる形で積みあがっているんですよ。会社が気分で払っているわけではない。)もありますから,実際はさらに高額です。
「業務委託(契約)」の場合は,会社が社会保険(健康保険と年金)を半額負担してくれませんから,全額を自分で支払わないといけません。その分,結局自分で使えるお金(可処分所得という)は少なくなりますね。退職すると翌年に多大な税金・保険料が掛かりますから,使わずに取っておかなければ大変なことになります。
(2)労働者としての「雇用」契約 と「業務委託」契約 の違い
労働者としての「雇用」契約と「業務委託」契約は,かなり違います。
労働契約と違って,労働基準法(契約や労働時間,残業代などが規定され保護されている)・最低賃金法などの法律による保護もありませんし,保険も自分で入らなければなりません。(会社に保険料の半額を負担して貰うこともない)
契約に際しても自分で十分に検討する必要があります。すべて自分の手腕が試されるため,会社企業の中で組織に依存し・守られていないと不安な方には向いていません。
雇用契約と委託契約を比較すると
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※1雇用保険対象者
法律が改正され,雇用保険の対象者は,
(1)31日以上の雇用見込みがあり,かつ,
(2)1週間の所定労働時間が20時間以上の者,です。
正社員はもちろん雇用保険の対象者であり,有期短時間雇用者(パート・アルバイト)のうち20時間以上勤務する者を対象としています。
平成22年4月1日より法律が改正され,以前は「(1)6ヶ月以上の雇用見込みがある,(2)同」であったのが,
基準が緩和されて多くの労働者が含まれるようになりました。
※2社会保険(健康保険と厚生年金保険)雇用主の加入義務
雇用主には,以下の条件に合う従業員について,社会保険に加入させる義務を負います。会社が費用の半額を負担します。
(1)おおむね2ヶ月以上継続して雇用の見込みがあり,かつ,
(2)1日の労働時間が正社員の4分の3以上,かつ(3)1ヶ月の勤務日数が正社員の4分の3以上 [(2)(3)を両方満たすこと],です。
後段を分かりやすく換言すると,
[正社員が1日8時間勤務,1ヶ月21日勤務(週5日×4.2週)]と仮定した時は,
(2)1日の労働時間が6時間以上,かつ(3)1ヶ月の勤務日数が15.75日以上],となるでしょう。
したがって,
*(a)1日「6」時間×「週3日」勤務×4.2週として勤務日数は「12.6」日…時間は満たしているが,日数が満たされていない
*(b)1日「6」時間×「週4日」勤務×4.2週として勤務日数は「16.8」日…満たされている
*(c)1日「8」時間×「週3日」勤務×4.2週として勤務日数は「12.6」日…時間は満たしている(雇用保険の加入条件も満たす)が,日数が満たされていない
*(d)1日「8」時間×「週4日」勤務×4.2週として勤務日数は「16.8」日…満たされている
※単純に「週30時間以上」ではない!!ことにご注意ください。(b)は週24時間なのに条件が満たされてしまいます。
※3 会社にとっての業務委託のデメリット
(1)「外部業者」であるため,会社への帰属意識はあまり生まれない。委託条件によっては仕事を断られる可能性がある。
(2)業務委託契約や請負契約は,業務単位で依頼することになるため,(社員に対してのように)適宜さまざまな業務を依頼することはできない。
(3)仕事の進め方について,具体的に指示をすることができない。(以下の「偽装問題」を更に参照して下さい)
(4)業務遂行のノウハウや技術が,社内に蓄積されない。
(5)将来の経営幹部候補として人財育成していくことができない。
※4「下請法」下請代金支払遅延等防止法
「下請代金支払遅延等防止法」(したうけだいきんしはらいちえんとうぼうしほう,昭和31年6月1日法律第120号),通称「下請法」と呼ばれる。
親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する法律であり,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独占禁止法)の一つとして存在している。
親事業者が下請事業者に業務を委託する場合,親事業者が優越的地位にあるため,親事業者の一方的な都合により,下請代金が発注後に減額されたり,支払いが遅延することがある(優越的地位の濫用)として,
取引の公正化を図り,下請事業者の利益を保護するために,「独占禁止法」の特別法として制定された。2003年の改正では,規制対象が役務取引にも拡大されて強化された。
詳しくは,中小企業庁ホームページを参照されたい。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin.htm
主な規定事項は次の通り。
*発注書面の交付義務。委託後,直ちに,給付の内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法等の事項を記載した書面を交付する義務。
*下請代金の支払期日を定める義務。下請代金の支払期日について,給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で,かつ出来る限り短い期間内に定める義務。・・・仕事をした日から最大60日以内なので,「月末締め,翌月25~28日支払」が期限の限界なんですね。
*下請代金の支払遅延の禁止。支払代金を支払期日までに支払わないことの禁止。
*遅延利息の支払義務。支払期日までに支払わなかった場合は,給付を受領した日(役務の提供を受けた日)の60日後から,支払を行った日までの日数に年率14.6%を乗じた金額を「遅延利息」として支払う義務。
*物の購入強制・役務の利用強制の禁止。自己の指定する物を強制して購入させ,又は役務を強制して利用させること。・・・インストラクターやパーソナルトレーナーにクラブ・スタジオが何かを買わせる行為は厳禁です。(以前大手スポーツクラブで水素水の件がありましたね。)
【解説2】行政指導を受けたインストラクターが居ます!!
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大手フィットネスクラブで,通常は「業務委託契約」で従事するインストラクター・パーソナルトレーナーを,ジム・プール・レセプションを担当するスタッフ従業員ではないにも関わらず,レッススンのみ・もしくはパーソナルトレーニングのみであるにも関わらず「労働雇用契約」する事例があるようです。(おそらく会社側の事情,株主に対する配慮などがあるのでしょう)
会社側も厚遇している訳ですからインストラクターにとっても有利な面が場合により有りますが,その勤務では「給与所得」を得ることになる為,(「事業所得」ではないため)経費を計上して課税所得額を減らすことはできません。(給与控除として65万円が引かれるだけ)
税理士に依頼していたにも関わらず,所轄税務署から行政指導を受けた契約インストラクターもいます(そんな特殊事情を税理士も把握しきれなかったのでしょう)ので,お気を付け下さい。
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*労働契約(雇用契約)→給与所得なので「控除額は65万円(+金額により漸増)」と自動的に定められる。経費を更に計上することは出来ません。
*業務委託契約→事業所得→事業をするにあたって掛かった費用を「経費」として「売上」から差し引いて税金計算ができる。
※所得税の話であれば,「サービス業の経費率は50%(まで)とされている」(みなし仕入れ率の考え方)ので「130万円の売上があれば→経費65万円」となるため,「【130万円以上の年収であれば損】な契約方法である」と言えます。
週20時間以上業務をしているのであれば雇用保険(失業給付の保険)がつく(はず)ですし,深夜時間帯のレッスンであれば1.25倍の割増給与になる(はず)なので,年次有給休暇もある?,それらの【恩恵を受けていれば得】ではありますね。
ただし「業務委託契約」は契約外業務や嫌な仕事は断れますが,「労働雇用契約」は会社/上司の命令に従わないといけません。契約書はどうなっているんでしょうね?
[A]大手フィットネスクラブにて[雇用契約=給与所得]でレッスンを行い,
[B]違うヨガスタジオにて[業務委託契約=事業所得]でレッスンを行っている,インストラクターが周りに何人もいます。
基本的な考え方として,
*[A]部分は,経費を計上することが出来ません。
*[A]金額には,レッスンフィーの他に,通勤代(電車運賃)が含まれていると思いますが,交通費として支出の経費とすることが(原則として)出来ません。衣装代・研修参加費用なども不可です。それらも含めて65万円が経費として引かれる(給与所得控除65万円)仕組みだからです。(65万円は経費に相当する金額として引かれるのです。)
*[B]部分は,事業をする上で必要とした経費を計上出来ます。
*経費を計上するには,白色申告または青色申告が必要です。(青色申告は,さらに事前に届出が必要です。後述)Aと比べてあまりにもBが低額であれば(生活を営む収入となり得ない小規模であれば),「事業所得」ではなく「雑所得」になり,経費は引けません。
*一般的にサービス業の経費率は50%ですから,「経費支出は[B]金額の半分まで」を目安にするのが妥当です。(勿論,個人利用/家事消費分ではなく事業に使ったことが客観的に分かり,かつ明確に区分できる証憑があれば,50%を超えても良いわけですが。)
*青色申告では複式簿記で記録を付けなければなりませんが,その場合は「交通費」は「支出・経費」ではなく「立替金」になります。(その方が実態に即しており,かつ売上金額がその分減らせて,節税になります。複式簿記については後述)
委託偽装(偽装委託・偽装請負)
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◆「委託偽装(偽装委託・偽装請負)」などと表現されますが,「労働者としての契約ではなく,業務委託契約であるにもかかわらず,『一般的指揮監督関係に入れ,時間を拘束した労働をさせ,対価として給与を支払う』形式」は法令違反です。
#労働者として留意
契約する側としても,そんな会社で勤務するのは得策とは言えませんね。従業員をおそらく経費(人件費)としてしか考えていないでしょうから,会社のために貢献する気持ちが薄れる前に,もっと充実して働ける職場を求めた方が適切です。
#雇用者として留意
労働法令を逸脱するための偽装と判断されますので,雇用者はお気をつけ下さい。
(リスク1)労働法規の違反と認定されると,労働基準監督署より行政指導を受ける。いったん労働基準法などの行政指導を受けると,厚生労働省の内部リストに載り,悪質なものは官報にて公表され,企業の印象も悪くなります。
(リスク2)さらに悪質な場合は,刑事罰に処せられます。
(リスク3)従業員から損害賠償を請求されるかもしれません。「裁判」以外にも,「労働審判」または「労働局による斡旋」(あっせん)という行政手続き的な紛争解決の場に呼ばれることもありえます。 -
委託偽装(偽装委託・偽装請負)に関する情報サイト
■厚生労働省東京労働局『あなたの使用者はだれですか? 偽装請負ってナニ?』(相談窓口のご案内)
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/001/005.html
■中小企業庁所管『下請かけこみ寺※』
(※中小企業の取引に関する様々な悩みに対応するため,無料相談窓口を全都道府県に設置しています。相談対応のほか,弁護士による紛争解決,講習会事業も行っています。,と紹介されています)
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.htm
■委託偽装の相談とその回答が掲載されています→総務の森「相談の広場 > 労務管理について > 業務委託の中途解約をしたい。~これって違法…?」
http://www.soumunomori.com/forum/thread/trd-144839/
労務管理に関する情報サイト
■厚生労働省発行:労務管理の手引き
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/roumukanri.pdf
委託偽装(偽装委託・偽装請負)の判断基準
◆詳細を後述(法律的・判例的な要件)しますが,以下の項目に当てはまるほど「委託偽装(偽装委託・偽装請負)」の可能性が高い,と言えます。
*仕事の依頼,業務従事に対する諾否の自由がない
*勤務時間・勤務場所を指定されている
*業務用器具の負担がない
*報酬が労働自体の対償である
逆に言えば,雇用側は,次の事項に気を付けなければなりません。
*仕事の依頼,業務従事の指示に対する諾否の自由を与える。
*業務の遂行方法は,委託先に任せる。(指揮命令権はない)
*契約している仕事以外を依頼しない。
*業務遂行に合理的に必要とみなされる時間以外に,時間数や時間帯の拘束をしない。
*報酬の計算単価は委託する業務内容や成果物に対して設定する。(時間給や日給といった,時間による計算をしない)
*本人が所有する機械・器具の使用を認める。
実際の労働裁判の例
■実例1,判例
http://www.jinjiken.co.jp/blog-spc-repo/blog/archives/146
※ちなみにこのページで紹介されている事例では,「労働基準法」上の「労働者」と,「労働組合法」上の「労働者」を区別して判決しており,なかなか興味深い指摘でした。
■実例2,通達
また,2007年9月27日に厚生労働省は,
バイク便メッセンジャー(自転車便運転者)について,契約は「委任」であっても実態が「労働契約」であると判断して,労働基準監督署を監督する各都道府県の労働局に対して通達を出しました。
その際の判定基準は,
(以下,通達の抜粋)「
使用従属関係を肯定する事実として,
(1)業務の内容及び遂行方法に係る指揮監督が行われている(指揮監督があること)
(2)勤務日及び勤務時間があらかじめ指定され。出勤簿で管理されていること(拘束性があること)
(3)他の者への配送業務の委託は認められていないこと(代替性がないこと)
(4)報酬の基本歩合率が欠勤等により加減されること(報酬の労務対償性があること)
労働者性の判断を補強する事実として,
(5)独自の商号の使用は認められず,事実上兼業を行うことは困難な状況にあること等が認められ,
総合的に判断すると労働基準法9条の労働者に該当すると認められる。」
委託偽装における法律的(判例的)な要件
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具体的には,以下の要件により業務委託として適法か違法かが判断されるようです。一つでも「当てはまるかどうか」ではなく,状況を客観的に・総合的に判断されるようです。
(1) 仕事の依頼,業務従事の指示に対する許否の自由の有無
...使用者から仕事の依頼や業務についての指示があった場合に,作業員に断る自由があるかどうか。断る自由があれば業務委託,拒否できなければ雇用契約です。
(2) 業務遂行上の指揮監督の有無
...業務の内容及び遂行方法について使用者の具体的な指揮命令を受けているかどうか。具体的な指揮命令を受けていれば雇用契約です。
(3) 時間的・場所的拘束性の有無
...勤務時間や場所が指定され,管理されているか。拘束されていれば雇用契約です。
(4) 代替性の有無
...本人に代わって他の者が労務を提供することや,本人の判断で補助者を使用することが可能。代行できなければ雇用契約です。
(5) 報酬が労務の対価とされているかどうか
...報酬が,使用者の指揮監督下での労働の対価として支払われたものであるか。時間的労務の対価として報酬が支払われている場合,さらには超過勤務手当(残業手当)が設けられている場合は雇用契約です。
(6) 業務用具の負担関係
...パソコンなどの業務で使う機械の費用負担をどちらがしているか。使用者がこの費用を負担していれば雇用契約,作業員が負担していれば(自分の個人所有の物を使用していれば)業務委託です。 -
職業安定法施行規則4条,厚生労働省告示「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」をまとめると,
以下の自主点検項目に一つでも該当項目がある場合は労働者派遣の可能性があり,適法な請負(業務委託)ではない可能性が高いと言えます。
「自主点検項目」
1.労働者に対する仕事の割付け,順序,緩急の調整等を自ら行っていない。
2.業務の遂行に関する技術的な指導,勤惰点検,出来高査定等について自ら行っていない。
3.労働者の始業及び就業の時刻,休憩時間,休日,休暇等について事前に注文主(委託者)と打ち合わせていない。
4.業務中に注文主(委託者)から直接指示を受けることのないよう書面が作成されていない。
5.業務時間の把握を自ら行っていない。
6.労働者の時間外,休日労働は業務の進捗状況をみて自ら決定していない。
7.業務量の増減がある場合には,事前に注文主(委託者)から連絡を受ける体制としていない。
8.事業所への入退場に関する規律の決定及び管理を自ら行っていない。
9.服装,職場秩序の保持,風紀維持のための規律の決定及び管理を自ら行っていない。
10.勤務場所や直接指揮命令する者の決定,変更を自ら行っていない。
11.事業運転資金等を全て自らの責任の下に調達・支弁していない。
12.業務の処理に関して,民法,商法,その他の法律に規定された事業主としての全ての責任を負っていない。
13.業務の処理のための機械,設備,器材,材料,資材を自らの責任と負担で準備していない。又は,自らの企画又は専門的技術,経験により処理していない。
14.業務処理に必要な機械,資材等を相手方(委託者)から借入又は購入した場合には,別個の双務契約(有償 例 自動車のレンタル「賃貸借契約」)が締結されていない。
(3)「業務委託」と「請け負い」の違い
両者ともに,企業内のある"業務"をお任せすべく発注する訳ですが,
(a)「業務委託」は,発注者の所有する施設(機械)で"業務"を"任せる" のに対し,
(b)「請け負い」は,完成までの全てを"請け負って"もらう(いわば"丸投げ") です。
(例)ケーキを作って貰う業務を発注する場合
(a)業務委託では,
*発注する企業(委任者)の施設に,職人に来て貰って,
*発注する企業が所有する機械で,
*ケーキを作る"作業を行って貰う"契約 ですし,
(b)請け負いでは,
*業務を引き受けた側(受託者)が自分の工場・機械を使って,
*ケーキを作って"完成品を納品する" ことを依頼する契約です。
業務委託契約と請け負い契約の違い
業務委託契約 (準委託も含) |
請け負い契約 | |
---|---|---|
法的根拠 | 民法643条:委任は当事者の一方が法律行為を為すことを相手方に委託し相手方がこれを承諾するに因りてその効力を生す | 民法632条:請負は当事者の一方がある仕事を完成することを約し相手方がその仕事の結果に対してこれに報酬を与えることを約するに因りてその効力を生す |
契約目的 | 法律行為・事務の委任。一定の業務を遂行することであって(民法643),一定の結果を出すことまでは義務ではない(民法656)。簡単に言えば"遂行責任" | 成果物・業務の完成。託された業務を完成させなければならない(民法632)。簡単に言えば"結果責任" |
報酬請求 | 受託した業務を履行した後に,報酬の請求(民法648-2)と費用の償還(民法650-1)ができる。 事務が遂行されれば報酬を請求でき,依頼主が予想した結果が生じなくても「善管注意義務」(※1)に欠けることがなければ報酬は請求できる。(※2) |
受託した業務を完成させた後でなければ,報酬の請求ができない。(民法633) |
受託者義務 | 受託者(受任者)は委託者(委任者)に対して,善管注意義務(※1)を負う(民法644) | 受託者(請負人)は委託者(発注者)に対して,受託業務を完成させる義務を負う(民法632) |
契約解除権 | いつでも・どちらからでも契約を解除できる, ただし当事者の一方が相手方の不利な時期に解除した時は相手方に対して損害賠償義務を負う(民法651) |
発注者は,業務を完成させるまでの間はいつでも損害を賠償して契約を解除できる(民法641)のに対し, 請負人は,業務の完成を約束した以上は契約を途中で解除することは許されない |
瑕疵カシ担保責任 | なし | 完成したはずの業務に瑕疵(欠陥)があった場合には瑕疵担保責任を負う(民法634~640) |
報告義務 | 受任者は,委任者から請求がある時はいつでも業務処理状況を報告し,業務が終了した後は遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。(民法645) インストラクターの場合,よく「レッスン報告書」の記入が求められますが,きちんと書かれていない実例があまりに多いです。 |
業務を完成させるための手段は請負人に委ねられており,業務の遂行について報告義務を負わない。下請けについても原則的には自由。 |
※2,例えば乱暴な表現をすれば,医師が命を救えなくても,弁護士が敗訴してしまっても,報酬は受け取れます。
ただし「士業」(認定資格を持つ「○○士」)は,より責任の重い善管注意義務が課されていると解釈するのが通例です。
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